優しい女が老妻の介護に来てくれて、元気になります。 ところが、その女を討ち取りに、その女の夫と子どもが現れる のです。 理由は舅夫婦の介護をしていたその女が、介護に疲れ果て、つ いに鬼となって、二人を食ったと言うのです。 討ち果たしに乗り込んで来た二人に対して、その女と妻は旅だ って行きます。その時、妻は「この女に優しく介護してもらって 良かった。あなたの介護は乱暴で良くなかったけれど、文句も言 えず我慢していた。」と言うのです。 大怖わ! 「雨月」藤沢 周 光文社 \1,600 雨月物語か?って直感も遠からずかな…何か通じているよ うな構成の物語。ホラーまでは行かないけれど、霊感ピリピ リとする田中裕子って拒食症の女は何者なんだろう。 雨月って古めかしい名前のラブホテルの従業員の俺が主人公。 まあ、親会社からリストラされたって言えばいいのかな。 社長の情婦、フロントの畠山と俺は…おいおいそんな事して ていいのかな?ほらほら杉山さんが変だよ。と思っていると大 事件。インターネットが出てきて、ケータイのメールも…と、 チンピラに狙われて…と、何か深いものがまだあると思った時 はすでに遅かったようだ。 藤沢周の新しい分野への野心作って、名付けちゃ悪いのかな? うんうんありそうな話だなあ。
「夏雲あがれ」宮本昌孝著、集英社 \2,200 兎に角痛快で、出てくる人間の人情と友情の厚さが 分厚く、どでかい。主人公たちは若者であるから、判断 力も人脈もないが、そこは小説。花魁初め、正義を愛す る者等が次々に結びついてワルに対抗するのである。 3人の若者が離ればなれになるところから物語が始まる。 凝った重箱の料理は仙之助が徹夜して作ったものである。 「お前が女なら嫁にしてやるところだ…」と抱きしめる この奔放な3人。バラバラになり、やがて江戸での大事件に 巻き込まれながら、3人が力を合わせて行くのである。 後は読んでのお楽しみ。ただ、こんな人情は今の世の中に こそ欲しいと思うのである。 「獄門首」半村良著 光文社 \1,800 もって生まれた盗賊の血筋の余助、いきなり物語の初めに その両親が人を殺して30両を盗む。この両親は同時に殺され 孤児となるが、寺で育てられ、道場で強くなって利八という棒 使いになる。そして巳之助となり、その後に盗賊団に入る。名前 は徳次郎。盗賊の盗んだ200両と言う金をまんまと自分のものに し、それを持ったまま、転々としていく。 名前も変わると、彼の運命もがらりと変わるのである。 将来は大盗賊の頭となる運命か…と言う記述に後半の期待が膨ら むのである。 題名からして最後は獄門首にさらされる運命であろうと予想さ れるのだが、残念ながら、主人公は揚々と生きて行き、物語は途中 までで終わってしまうのである。 そう、昨年亡くなった半村氏の遺作であり、この後が読みたくて 堪らなくなる本である。 「闇の処刑人」森村誠一 著 新潮社 \1,500 不条理の武士の世界を捨てた浪人、病葉行部の刺客請負人 稼業。しかし、ただ金の為だけでは人は切らない。 作者は全体を通して社会風刺や、解説が上手い。いじめ問題 さえ扱っている。 6編のうち、最後「外道の債務」は討ち入り後の赤穂浪士と 吉良の残党の暗躍に絡む仕事である。 浅野内匠頭が刃傷沙汰を起こしたのは、情報不足とその対応 の不味さであり、それは江戸家老の怠慢だとも書いている。 一理あるだろう。時代モノであるが、現代の問題そのもの。 そして、主人公の痛快さは読んでいる自分の思いでもある。 「大盗の夜」澤田ふじ子 著 光文社 \1,700 陰陽師、土御門家笠松平九郎が京の治安に眼を配る。 痛快活劇と捉えよう。この書からは新しく知る事ばかりである が、解説を読むとうなずける。 江戸時代、江戸の町は人口でも百数十万人と言われている。それ を両奉行所を含めて与力50人。同心250人程度の体制で治安維 持に十分だったのである。現在に比して犯罪が極めて少なかったの は不思議である。 僅かな役人だけでは治安が保たれる筈がない。ここに、易者と してもめ事を解決し、犯罪の発生を未然に防いだ別の組織の働きが あった。それが約1,000人に登る陰陽師等というのである。 彼らと長屋の大家の働きは歴史を見るときに重要で有ろう。 これらを考えながら、こんな事件や、その解決への動きがあっても 不思議でない…と思って、読んで楽しんで欲しい本である。
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