今ダイアルを合わせて目的の電波を捉えるのはAMラジオ位になった。他は全てチャ
ンネルである。チャンネルも1つの周波数であるが、切り抜きであることは殆ど忘れ
てしまっている。例えば、1チャンネルと2チャンネルの間は6MHzもの開きがある。
この間さえ周波数が連続しており、電波が飛び交っているかも知れない事を忘れては
ならない。
そこに重要な回線が存在しているかも知れない。どうも目隠し状態なのだ。しかし、
世の中が進むにつれて便利さが優先し、意識しなくなった。
しつこく例を挙げる。かつてハムで50MHzを使っていた時にダイアルをちょっと回し
た。54MHz辺りだった。強い語調の朝鮮語の通信が入って来た。仲間が調べたら、韓国
の戦車の訓練だったと聞いたことがある。世界中を飛び交う電波はまさに玉石混淆だ。
私は遠くからかすかに聞こえてくるAMラジオの放送を聞くと、ホッとすることがあ
る。北朝鮮では固定されたダイアルのラジオでないと持つことが出来ないそうだ。
話は変わって、オーム事件の最後の容疑者高橋克也が逮捕された。この逮捕までを
促進した1つに街の防犯カメラがあると言われている。警察は今回しつこくカメラに
写った高橋容疑者の顔を流していたからだ。「これから安心出来ます。」と言う街の
一般人のコメントがあった。逮捕前も「この辺には防犯カメラが多いので、比較的安
心です。」と言っている。つまり、防犯カメラのお陰で悪い人が行動できなくなるから
と言う論だ。
学生時代読まされた英語の小説にジョージオーウェルの「1984年」と言うのがあった。
大戦後、オセアニアの独裁者ビッグブラザーは国民を大きなスクリーンと監視カメラ
で思想管理し、決して疑問や他と違った行動を許さない。主人公のスミスはふとした疑
問を持ったばかりに犯罪者にされ、秘密裏に拷問、思想変更を強要されるのだ。この小
説は大戦後の共産主義の拡大を懸念した作者の気持ちが表れていると評されているが、
私は少々複雑な思いで、このチャンネルの事、防犯カメラの事を受け止めている。
小説では独裁者ビッグブラザーはどこにも登場して来ない。スクリーンによる相互監
視体制が個人を規制し、管理するのだ。このあたりが我々今日の社会の方向と重なって
見える。「便利」「簡単」「安心」「安全」等々の大きなうねりが防犯カメラを監視カ
メラに変えて行くのかも知れない。
*参考 H24,6,22, P12 新潟日報「風の言葉・石の声」
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