緑を何で青いって言うか知ってる?

   青葉は青いか
 北原保雄氏の著(大修館)は面白い。氏は柏崎市出身の国語学者で、日本語の
問題を面白く、すっきりと解決している。これらは、私たち教師こそ知っておく
べき知識なのかもしれないと読んでいて思うようになってきた。
  標題のように「緑色の葉っぱをなぜ青葉というのですか?」と純粋な生徒ほど
質問するだろう。これにきちんと答えてくれる先生は勉強家で尊敬できると思う。
 一緒に調べてくれる先生なら勉強が好きになるものだ。しかし、ひどい時には、
「昔からそう決まっているんだ。へ理屈をいうな!」と怒ったりする先生もいる。
 これらを解きあかして行く事が学習であり、学習する面白さを知ることになる。
 ぜひ読んで、感想を交換し合いたいものである。そこで、ほんのさわりだけを
紹介したい。
 まず、青葉の件である。青信号も同様である。青い、赤い、白いなどは形容詞
があるが、歴史的に新しくあらわれた緑にはない。黄もそうだ。緑や黄はその下
に「色」をつけて表すグループである。どうしてかと言えば、形容詞全般の語音
構造から来るという。属性的な意味を表す色の形容詞は全てク活用である。「あ
おク」「あかク」「しろク」である。このク活用はクの直前の音節がイ列音(イ
キシチニヒミリ)であってはならない制約がある。よって「緑り、緑い」という
形容詞はない。「紫い」や「黄い」もない。このような形容詞の形をもち得ない
色を表すグループは「色」を下接させる。例えば「緑色」「黄色」という具合で
ある。さしあたって、「緑色葉」「緑色信号」となろうか。何か風情がない言葉
となるのも仕方ない筈である。


    「新解さん」って知ってる?

「新解さん」の第6版が出た。7年ぶりの改訂版ということである。そこで、再度
「新解さん」について宣伝し、常用されることをお勧めしたい。

 子どもも大きくなるにつれてこの辞書の奥の深さ、独特の穿ち(うがち)の魅力に
とりつかれると思う。そうこうするうちに、学ぶ楽しさを見つけてしまうと言う素晴
らしい国語辞典である。
  絶対にお勧めである。これまで紹介した上に少し話題をのせよう。
[悪妻]→第三者から「悪い妻」と目される女性。当の夫は案外気にしないことが
多い。
[政界]→不合理と金権とがものを言う政治家の世界。
[初恋]→少年少女時代のうたかたと消えた恋。などと、実に切れ味が鋭い。
以前紹介した(21号11月24日)内容にもダブルが、[恋愛]には「合体したい…」
が記述され、語り草にもなったが、この第5版執筆の主幹、山田忠雄氏は執筆中に亡
くなったという話もついて回る。6版は残念ながら、少し味が違う。
[恋愛]→特定の異性に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような愛
情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけで居たい、二人だけの世界を分か
ち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれ
ば不安になるといった状態に身をおくこと。
  納得であろう。
 作る者が代われば新しい商品であると作者は語る。6版には運用欄が設けられ、対
人関係にかかわる表現効果が明示された。
 また、用例の文も大きく見直された。これは作者群にもよるが、1点では老人( ) ? 
っぽい。こんな用例がある。
[いそいそ]→また、どこか悪くなったら、読みたい本をかかえていそいそと入院す
ることに致します。(ずいぶんと異端である。)これは第6版では、
[いそいそ]→着飾っていそいそとデートに出かける。こちらが分かりやすい。
癒し、インストール、チャット、茶髪、リベンジなど新語が1,500加えられた。
編者の一人、倉持保男氏はこう語る。
こういう社会が続く限り、10〜15年は生き残るだろうと、直感で入れる以外ない。
社会の動きに関心のない人間には辞書は作れません。編集者の条件は、好奇心旺
盛な偏屈者であること。
「新明解国語辞典第6版」三省堂\3,045   人に勧めて欲しい。


 第5版について紹介した文も下に掲載しておきたい。 「新解さん」について  先日国語辞典が話題となった。そこで、お奨めしたのが、こだわり屋の中学 生にはぴったりの国語辞典、金田一京助 監修の三省堂「新明解 国語辞典」 である。ここの部分的な面白さが分かるだけで、ずいぶんと勉強が好きになる と思う。 ぜひ、多くの人に紹介して欲しい辞典である。そこで、何が変わっ ているか、さわりをここに紹介しよう。後はぜひ直接当たってみて欲しい。  先ず引くのは【恋愛】の語  特定の異性に特別の愛情を抱き、高揚した気分で、二人だけで一緒にいたい、 精神的な一体感を分かち合いたい、出来るなら肉体的な一体感も得たいと願い ながら常にはかなえられないで、やるせない思いに駆られたり、まれにかなえ られて歓喜したりする状態に身をおくこと。(第5版)とある。これが第4版 だともっと過激か。「肉体的な一体感」のところが、「合体したいという気持 ちをもちながら」となっている。え?合体とは何事か?「釣りバカ」のファン なら最後のシーンは黒くなって「合体」という文字で終わるからよく分かるだ ろう。ちなみにこの辞書では【合体】A「性交」のこの辞書での宴曲表現。  なんと大胆な記述であろう。私も見つけた、【やらせ】テレビのドキュメン タリー番組などで出演者と事前に示し合わせておいてなれ合いでもっともらし く何かを行わせること。そうだ「やらせ」はテレビのことでと言い切って結構。  面白いのは【馬鹿】の所にカッコ書きで「人をののしるときに最も普通に使 うが、公の席で使うと刺激が強すぎることがある」と注釈がある。親切!  そして=(2回続けるの意味だろう)は女性語で「相手に甘えるときの言い 方」とある。ハイハイよく教えて下さいます。本に戻ろう。 【嬌羞】(男性にとってそれがたまらない魅力となる)女性のはじらい そう、もう「たまらない」のである。実感のこもった説明、感謝感激! 【女】(狭義ではやさしい心根優柔不断や決断力の乏しさがからまり存する一   方で強い粘りと包容力をもつ人を指す)         ついでに 【なまじ】「−女の子が柔道なんか習ってもしょうがない」と用例がある。 ええっ、いいのかな?柔ちゃんはどうなる。ところが(第5版)は後にちゃん と1行付けた。「…などという雑音には耳も貸さず精進し見事世界チャンピオ ンになった。」と、これこそ私の新発見。女性をどう新解さんがきっているか 面白くなりだすと徹夜も繰り返す羽目になる。  もう新解さんのことは何度もテレビや本などで紹介されていたそうだが、情報に 疎い私はその頃ようやく赤瀬川源平著「新解さんの謎」を読んで、この新解に 感じるようになってきた…のである。  そして、益々エスカレートすることとなるが、「新解さん」ファン度はだん だんヒドくなり、相手構わずにこの辞典を薦めることとなるのである。  皆さんはこの話を聞かれてどう感じただろう?一緒にこのムードを感じとっ ていただけるなら嬉しい。「何という国語辞典であろう。」と恨んでくれる人 がもっと出て欲しいとも願っている。  さて、その赤瀬川源平著「新解さんの謎」はどんな本だろう。そこに書かれ ていることに沿って、この新解の感じる所を綴ってみたい。私の感じる順番で 書くから面白くないのかもしれないが、それは了解して欲しい。生徒たちにい つも言っていると思うが、世の中はそう甘くはないと思うから… 〔実社会〕「美化・様式化されたものとは違って複雑で、虚偽と欺まんとが充 満し、毎日が試練の連続であると言える、厳しい社会を指す。」その通りだ。  分かるかな?この著者の経験の深さを。 〔逃げる〕の用例 「刑務所から--」 そう苦労しているんだ。およそ凡人には分かるめエ! 〔凡人〕「自らを高める努力を怠ったり、功名心を持ち合わせなかったりして、 他に対する影響力が皆無のまま一生を終える人。マイホーム主義から脱するこ とのできない大多数の庶民の意にも用いられる。」   背中の悲哀が伝わってこないかな○△先生。先生と言えば、遠足はこうあ るゾ。 〔遠足〕「見学・運動などのため、教員が児童・生徒を引率して交通機関をな るべく利用しないで遠くへ行くこと」納得だ。交通機関を使った楽なモノは遠 足じゃないゾ!だ。ついでに本も読もう。 〔読書〕「研究調査や受験勉強と違って、一時現実の世界を離れ、精神を未知 の世界に遊ばせたり、人生観を確固不動のものたらしめたりするために、 (時間の束縛を受けることなく)本を読むこと。」長〜い説明だ。受験生がカ ッコつけて読書が趣味なんてのは違うのだ。使っている者の大部分は受験生か も知れないだろうこの辞書。辛口だ。気に入った。大人の雰囲気そのものだ。  例えばよくやる 〔手締め〕「物事の決着や成功を祝って関係者一同がかけ声に合わせてする拍 手。シャンシャンシャン、シャンシャンシャン、シャンシャンシャンシャンと聞こえるように調子をとる。」  どうこの臨場感。ここまでシャンシャンを書く辞典はあろうか?  とにかく大人なのだ。用例を見よう 〔おおかた〕「入れ替わり立ち代わり表れて、彼女の財産の--をむしり取って いったようです」ウ〜ん、この世界が分かるなら、相当人生こなれているのでは? と思うのは私だけか。  では可愛く、 〔動物園〕C「捉えてきた動物を人工環境と規則的な給餌とにより野生から遊 離し、動く標本として都人士に見せる啓蒙を兼ねた娯楽施設。」  4版はもっとラジカルだ。「生態を公衆に見せ、かたわら保護を加えるため と称し、捕らえてきた多くの鳥獣・魚虫などに対し、狭い空間での生活を余儀 なくし、飼い殺しにする、人間中心の施設。」こっちがグ〜ンと来る。  全ページ面白い。旧版と比較するとなお面白い。実践的、実感できる辞典だ。  全出の書には「攻めの辞典」「感じる辞典」とある。安価な三省堂の国語辞 典も同じ著者であるのに全く記述が異なる。ここも何か不思議な所だ。  もう一度書こう。 * 新解さん→三省堂発行「新明解」国語辞典(第5版)\2,800(税別)